注意事項 以下の事項について注意を願います。 ・題材が題材のため、EP1~3までのネタバレの要素を含みます。ネタバレを嫌う方は閲覧をご遠慮願います。 ・オリジナル要素、オリジナルの解釈が含まれます。そういうのが苦手な方は閲覧をご遠慮願います。 ・誤字脱字は脳内保管でよろしくお願いします。 ・更新スピードのため、だいぶ間の話を飛ばします。
第八話:終わりへ至るプロローグについて考察(後編)
微睡の中。
これが夢だとわかっている。
周囲は暗く、目の前には鏡を見ているかのような自分の姿。
その姿が語る。
「"終わり"が見えてきましたね」
「ここでいろいろ聞いたほうがいいんでしょうかね?」
「どうですかね? わかっているんじゃないですかね、なんとなく」
「ええ、ここで聞いたことはきっと私の記憶には完全には残らない。何故なら」
「何故なら、私が壊れているのは『記憶を思い出す』機能」
「それが直っていない以上、ここで聞いたことはおそらく消えるのでしょう? 思い出せている私」
「その通りですよ。しょせんこれも私自身の思考ですから。はたから見れば何ともお寒い自分語りですよ、これ」
「全くです。どうせならもっとましな夢を。……どれがマシでしょうかね。彼女が登場人物に抜擢された瞬間にどうあがいても酷いことになりそうです」
「間違いがないですね」
言葉が途絶える。
今度はこっちから。
「……私というものはままなりませんね。いつだって目を向けるのは上ばかり」
「いつだってそうでしょう」
「そうですね、だからこそ私なのでしょう」
「言っておきますけれど、先のもっとましな夢をって話ですが。こっちの記憶を漁っても碌なものがありませんよ」
「聞きたくなかったですよそんなこと」
「仕方がないんですよ、私はきっとそういうものです。目の前の何かを見過ごせなくて、力が足りないくせにあがいてしまう」
「面倒な性格ですね、彼女の事は笑えません」
「ええ、だからここで"終わり"です」
「……どういうことですか」
「ここで"終わり"です。今まで色々ありました、私自身が揺らぐものがありました。それでも楽しい日々でした。それらが終わります」
「……」
「私の"二度目の末路"はもうすぐです、私がそれを知るための"断片"は半分揃っている」
「そうですか。それでも、私は私であるなら、その末路は変わらないのでしょう」
「ええ、私が私である限り、変わらないでしょう。どうしようもないですね。だから、しっかりと後の準備はしておいてください」
「そうしますよ」
「二度目の、と言いましたが。今回が正真正銘の末路、終点になるでしょうね」
「それでも足を止めるつもりは無いですよ」
「でしょうね、私。解ってて言ってます。それでは最期の最後まで、私らしく」
「足掻くとしますよ」
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目が覚める。
そうして気がつけばアムドゥスキアの空を見上げている。
離れたところから、クーナの歌が聞こえて状況を把握する。
「はあ、情けないですね」
アイとクーナの二人を送り届けて、そうして私は力尽きて倒れた。
アムドゥスキアの大地を褥に、空を天蓋にして眠りこけていたわけだ。
格好つけた言い方にしても格好がつかない。
「〔目が覚めたか〕〔アークス〕」
龍族の声に体を起こす。
「おや、コ・リウさん。お手間を取らせてしまったようですね。申し訳ありません」
声の主に気が付いてしっかりと立ってから頭を下げる。
どうやら、自分を守っていてくれていたようだと思い。
「〔気にするな〕〔アークス〕〔お前に何かあれば〕〔あのアークス〕〔悲しむ〕」
「遊び相手が減ったーって惜しみそうではありますね」
なんだかコ・リウさんがこっちを何か言いたげに見ている。
はて、物事を常にはっきり言う相手だと思っていたのだけれども珍しい。
「〔アークス〕〔これに見覚えはあるか〕〔以前〕〔黒い相手と対峙した場に〕〔落ちていた〕」
す、と差し出されたのは黒の立方体。
見覚えのあるそれを思わず手に取って。
「〔アークス〕〔お前が落としたものかと〕〔思ったのだが〕」
「……ありがとうございます、これはええ。"私が落としたもの"で間違いありません」
「〔そうか〕〔返せてよかった〕」
コ・リウさんは満足げに頷くとそのままこの場を後にした。
私は手の中に"あった"立方体を見て。
「……同一座標に二つのものが存在する時に発動する、ですか」
何も無い手の中を握る様に、拳を作る。
それは、記憶媒体。
記憶と記録が内蔵されたそれは、今私の中へとインストールされた。
「私の事故もまた、想定済みと。まあ私ですからね」
ふ、と一つ息を吐く。
動揺は少ない、唐突に自分の記憶が戻るなど少しは動揺してもしかるべきなのだろうと思うが。
ああ、であるならばやはりあの夢は自分の予感、予測、そう言ったものが見せたものなのか。
「"再誕の日"、それまで時間がない、か」
やるべきことは多い、ここで動揺をしてそれをこなす時間を浪費したくもない。
自分という存在は本来ここにはいないもの。
彼女であるならば一人でも乗り越えるのかもしれない。
だが、ここに居る私は
「……」
歌の聞こえる方向を見る。
あの場にはアイとクーナがいる。
ああ、思う。
クーナは確かに、裏側にいる人だ。
それでも、光が当たらない訳ではない。
彼女に関しては言わずもがな、自ら光を放ち人を導いていく。
その背を追いかける人の目に焼き付く、そんな光だ。
かえって自分はどうかと、思い返して笑う。
「光はいらない、闇が恋しいわけではない。ただ、私には眩しすぎる」
それでもそこにあって欲しいと、願うのだ。
だから。
「お別れです、アイ」
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Side アイ
浮遊大陸のあの一軒以降、ユウの姿を見かけない。
何時もの場所で待っていても、何時までたっても待ち人は来ず。
思わず、ショップの壁に寄りかかり片膝を抱えてしまう。
「……むぅ」
様々なことがあった。
怖い、何が起きているのかわからない。
それでも、自分にできることがあるから、足を進めたい。
そんなときに、彼の声を聞いて、彼の困ったような笑いを見る。
気がつけばいつだって、恐怖に立ち向かえるだけの力をもらっていた。
「元気ですねって、君は笑ってたけどさ」
それは君からもらってたんだよ、そのつぶやきは虚空へと消える。
「……」
浮遊大陸で見た、最後に見た、彼の姿を思い浮かべる。
道を拓く、という言葉の通りダーカーが立ちはだかるものを足を止めずに突き進んでいたあの姿。
あまり見せてくれない彼の背中、本人曰く研究者だからフィールドワークは、などと口にしているが。
「大きかった、なあ」
頼りがいも感じた。この背の後ろに居れば安全なのだと、直感的に思わせてくれた背中。
普段の丁寧な口調を操る姿とのギャップのせいなのか、と考えて僅かに口端を持ち上げる。
そんな彼女が待っていた相手は、今日も来なかった。
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Side クーナ
「……はっきりと言います。あなたは何者ですか」
「はっきりと言われましても、説明が難しいのですよね。シオンなら、理解と納得はしてくれると思いますが」
「シオン?」
「いえ、こっちの話です」
ユウと名乗るアークスを見かけ、それから色々あってこの問答に至っている。
声に力が自然と入る。
「"絶対令"が効かない一般アークスなど……」
「一般アークスかと聞かれると否定せざるを得ないのですけど、私の立場というか過去って説明が難しいのですよ」
アイと親しい彼がもしもアイと対峙することになったなら。
彼女の心に多大なダメージが行く、そう思ったから前もって対処をしようとしたらこの様である。
私の"絶対令"が効かなかった。
それだけではない、このアークスは”絶対令”を知っている。
「どうせアイにも説明しないといけないんです、一区切りついたらすべて話しますよ。どうせ、その時は近いでしょう?」
「……本当にあなたは何者ですか。そして、誰の味方ですか」
同じ言葉を繰り返す。
情けなくも、私はそれしかできなかった。
実力行使もできなくはない、だけどもどうしてもそうするのが適当な相手とも思えなかった。
「私の敵は、今はルーサーということになりますよ。アイの味方と考えてもらっていいかと」
「なら、何故あの子を避けているのですか」
「彼女と会話をすると、私の中で張りつめているものが緩む気がしまして。僅かなゆるみが許されない、そんな状況になるだろうと思っていますから」
彼が深々とため息を吐く。
できるならやりたくない、そんな心情をうかがわせる疲れた仕草。
「それでは私はこれで。ああ、念のために一言」
「?」
「フィリアさんに預け物があります、とだけ」
「……あなたは」
死ぬ気ですか、その言葉は声にならず。
変わらぬ足取りで去っていく彼の背を見送った。
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そして、再誕の日が訪れる。